主よ人の望みの喜びよ ディヌ・リパッティ(ピアノ) [好きな歌]
バロック音楽は朝に合うとよくいわれます。この曲などは特にそうで朝の淡い光のなかで、ぼんやりして聴いていると天国に連れ去られるような心持にさせられます。(ほんとうに連れ去られると困るが・・・)J・S・バッハが書いたメロディのなかでも「G線上のアリア」と並んでもっとも美しい旋律のひとつ。
原曲は教会カンタータ「心と口と行いと生活で」のなかのコラール合唱曲ですが、有名曲だけにいろいろな楽器に編曲されています。最近聴いた編曲では村治香織のギター版が枯れた雰囲気でなかなか良かったです。
ここで取り上げるのはイギリスのピアニスト、マライア・ヘスのピアノ編曲版で、演奏は不治の病で若くして亡くなったルーマニアの天才ピアニスト、ディヌ・リパッティ(1917-1950)
1940年代後半の録音でモノラルだし、録音状態も現在とは比べるべくもないが、奏でられるその音楽は、素朴なのに崇高で奇跡的な演奏。粒立ちがはっきりしていて、まるで天から降りてくる神の声を聞くかのようです。疲れているときに聴くと脳神経の真ん中まで癒されます。
リパッティは体調がすぐれないにもかかわらず、ブザンソン音楽祭に参加し、最後の曲を弾くことができず退場しますが、しばらくして舞台に現れこの曲を弾いたそうです。突然のことで録音はされませんでしたが、彼は二ヶ月後に33才の若さで世を去り、「主よ人の望みの喜びよ」は奇しくも彼の最後に弾いた曲になりました。
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